ものごごろついた時、ひよこぶたはある女の子のもとにいた。そのこは一人暮らしだった。とてもやさしくて、ひよこぶたをとてもかわいがって、よくしてくれた。ひよこぶたはそのこのことが大好きだった。そのこの部屋の中の暮らしは、外の世界なんて考える必要もないほど幸せだった。
ところがある時期突然、そのこはふさぎこむようになった。ひよこぶたが笑わせようとしても笑ってくれない。構って欲しくても構ってくれない。部屋を出る時の「いってきます」も、帰ってきた時の「ただいま」も言ってくれない。ひよこぶたとは最低限しか触れあわなくなってしまった。そしてとうとう出てったきり帰ってこなくなってしまった。
ひよこぶたは待った。けれどいつになっても「ただいま」が聞こえてくることはなかった。
あるひ女の子に似たおじさんとおばさんが部屋にやってきた。ひよこぶたはとっさに隠れた。その女の子以外のひとは写真以外で見たことがなくて、少し恐かったから。おじさんとおばさんは暗い顔をして部屋の中をすっかり片付けてしまった。最後までひよこぶたには気がつかなかった。
おじさんとおばさんも帰って、部屋の中はすっかり何もなくなってしまった。あのこのベッドも、あのこのお気に入りのセーターが入っていたタンスも、一緒にご飯を食べたテーブルも、お皿も何もかもなくなってしまった。ひよこぶたはぽて、と冷たい床の上に座った。 あのこがどうなってしまったのか、その時なんとなくわかった。
ひよこぶたは女の子のものだった部屋を出た。そして少し遠くの小さな森で暮らし始めた。前は考えもしなかった生活に最初は戸惑って苦労もしたけれど、すぐになれた。友達もできた。
それでもときどき街に出る。あのこと同じようなひとを見ると何かしてあげたくなって近付いていく。言葉は喋れないけれど、「どうしたの」ってきいてみる。そうすると大半のひとたちは表情を和らげて、ひよこぶたをなでて、戻っていく。かとおもえばひよこぶたなんてまるで存在しないみたいに無視して、疲れた切った表情のままどこかへ行ってしまうひともいる。
ひよこぶたは考える。自分をなでてくれた人とあのこと何が違ったのだろう。無視した人とあのこはどこが同じだったのか。
ひよこぶたはときどき考える。あの子はどうしていなくならなければならなかったのか。自分にもっとできることはなかったのか。何の意味があって自分はあのこのところにいたのか。
そういうふうに難しく考えることもあるけれど、ひよこぶたは今の生活に安らぎを感じている。今は今で生きるべきなのだ、と思っている。
キャラクター紹介へ
2008年03月30日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/54150987
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/54150987
この記事へのトラックバック